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最高裁判所第一小法廷 昭和48年(オ)270号 判決 1975年1月30日

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人萬谷亀吉、同山下義則の上告理由第三、四点について。

一、原審の適法に確定した事実関係は次のとおりである。

被上告人組合では職員定期預金について一般の定期預金より高率の利息、いわゆる特利を付していたが、上告人は、昭和三八年三、四月頃から昭和三九年八月頃までの間に、被上告人組合の営業部預金課の職員であり、かねてしばしば預金勧誘のため上告人方に出入りしていた高橋文司を通じて、同人名義で、被上告人組合に、一口五万円から一〇〇万円までの職員定期預金をし、その額は、昭和三九年八月頃、既に払い戻されたものを除き総額約四〇〇万円となつていた。高橋は右四〇〇万円のうちその頃満期の到来した三三〇万円を被上告人組合から払い戻し、これを上告人の了解なしに他に貸し付けたが、回収不能となつたため、上告人にその支払をすることができず、同人に損害を蒙らせた。

二、原審は、被上告人組合は、職員が職員外の者に職員定期預金を利用させることを禁止していたのであるところ、上告人は、このことを知りながら右預金をしたのであるから、右預金に関する高橋の行為に基づく損害につき、民法七一五条によつて被上告人組合に賠償請求をすることはできない旨判断する。

三、しかしながら、職員外の者が職員を通じてその名義で職員定期預金をすることが被上告人組合の禁止するところであり、これに反してされた預金契約が職員定期預金としては有効に成立しないとしても、右契約が被上告人組合に対してなんらの効力を生じるものではないと解すべきではなく、むしろ、職員定期預金でなければ預金契約をしないことが明らかであつた等特段の事情のないかぎり、右契約が職員定期預金としては有効に成立しないとしても、預金契約は職員外の者と被上告人組合との間において、特利に関する約定のない一般定期預金として有効に成立するものと解するのを相当とする。そうすると、右預金に関する前記高橋の金員の受入れ、払戻等の行為は、右の限度において被上告人組合の業務の執行行為というべきであり、払戻しに関して高橋が上告人に加えた損害につき、上告人は民法七一五条により被上告人組合に対して賠償を求めることができるものといわなければならない。なお、原判決引用の判例(当裁判所昭和三九年(オ)第一一〇三号、同四二年一一月二日判決・民集二一巻九号二二七八頁)は、事案を異にし、本件に適切でない。

以上のとおりであるから、原審は民法七一五条の解釈適用を誤り、その違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであつて、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れないところ、前述の特段の事情の有無、上告人の損害額の確定、損害を蒙つたことにつき上告人に過失がなかつたか否か等更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すのを相当とする。

よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岸 盛一 裁判官 藤林益三 裁判官 下田武三 裁判官 岸上康夫)

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